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手話通訳制度に関するワーキンググループの報告

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手話通訳制度に関するワーキンググループの報告
※長文ですが手話通訳制度について多方面から検討されていて、参考になります
1 検討するにあたって
① まず、手話通訳事業が、国や地方自治体の事業として位置づけられている理由・根拠を整理する。
現行法体系の中では、手話通訳事業は、身体障害者福祉法において、下記のように規定され、社会福祉法の第2種社会福祉事業として位置づけられている。
「手話通訳事業」とは、聴覚、言語機能又は音声機能の障害のため、音
声言語により意思疎通を図ることに支障がある身体障害者(以下この項
において「聴覚障害者等」という。)につき、手話通訳等(手話その他厚
生労働省令で定める方法により聴覚障害者等とその他の者の意思疎通を
仲介することをいう。第三十四条において同じ。)に関する便宜を供与す
る事業をいう。 (第一節 定義 (事業)第四条の二の2)
  手話通訳者の養成・研修・登録・派遣及び設置事業、は、障害者総合支援法により、地域生活支援事業の中で、市町村または都道府県の必須事業として位置づけられている。
  これ以外にも、個別法の規定にもとづき、公職選挙法において政見放送への手話通訳士の配置、民事訴訟法・刑事訴訟法において手話通訳者の配置、ハローワークにおいて手話協力員の配置が行われている。
  また、法律に規定がなくとも住民向け広報など、国や自治体が自ら手話通訳者を配置する例は多い。
  これらのように、法律で規定されたり、国や自治体の判断として手話通訳者を配置したりする理由は、ろう者の社会参加場面や事業・サービス利用場面において手話通訳保障が必要であることの認識があるためと考えられる。その認識の根拠には、生存権や幸福追求権、法の下の平等や裁判を受ける権利など日本国憲法における基本的人権の保障規定があるためと考えられる。
② 本ワーキンググループは、現行の障害者総合支援法に関連する制度を前提に手話通訳制度の検討を行った。
障害者福祉制度の改正と見直しが続く中、障害者福祉事業を規定する現行制度の中で現状と課題を確認し、それをもとに、あるべき手話通訳事業のモデルを提示することで、見直しの論議に資することができると考えたことが、現行の制度を前提とした理由である。
③ 本ワーキンググループの検討の土台になったのは、全国手話通訳問題研究会が、討論・学習会の材料としてまとめたパンフレット「全通研がめざす手話通訳制度」である。
④ 2016年4月から障害者差別解消法と改正障害者雇用促進法が施行されたが、
障害者総合支援法以外の法律や、国・地方自治体の事業実施場面、あるいは
公的な手話通訳制度の枠外においても手話通訳が必要な場面は考えられるが、
そうした手話通訳事業の拡大についても、今回の検討によるあるべき手話通
訳事業のモデルに基づいて対応する方向で整理した。
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2 手話通訳事業の現状について
手話通訳事業において、現在行われている業務については、下記のように整理した。
(1)言語レベル通訳業務
(2)情報提供・当事者間の関係調整業務
(3)相談支援等業務(意思形成・決定に関与)
1988年3月30日、財団法人全日本聾啞連盟手話通訳認定基準等策定検討委員会の「手話通訳士(仮称)」認定基準等に関する報告書では、(3)の相談支援業務について次のように整理している。
聴覚障害者の生活相談や指導に直接携わる者は,手話によるコミュニケー
ションが十分にできるのが理想的であるが、現実には聴覚障害者と十分コミ
ュニケーションができる相談・指導の専門職が配置されていないために、手
話通訳者が相談・指導業務のかなりの部分を分担しなければならない状況で
ある。聴覚障害者の相談・指導にあたる者と手話通訳者の職務とは、基本的
には別なものと考えることが適当であり、今後は、本報告に示すように手話
通訳者の職務と、相談.指導に携わる専門職の職務は、明確に分離すべきで
ある。
この報告書以降、現在においても、手話通訳者の職務は相談支援領域と密接な関係にあるといえる。現在検討が進められている「意思決定支援」においても、その領域は、手話通訳によるコミュニケーション支援も相談支援と同様に密接な関係にあると考えられる。
(参考)

3 手話通訳制度の現状の課題と解決の方向性
 障害者総合支援法の枠内で、次の課題に取り組むものであるが、今後、情報・コミュニケーション法の事業として位置づける場合、同法の条文に解決策の書き込みが必要である。
 また、正職員としての雇用については、地方交付税の算定基礎に加えるなど既存の仕組みの活用も含め取り組むことが必要になるものがある。
 さらに、手話言語法制定運動の5本柱を基本に、手話で自由に生活する権利を考えた場合、利用者負担を求めないことを制度内で明記することが必要である。
2013年3月27日付け、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室長名にて通知された「地域生活支援事業における意思疎通支援を行う者の派遣等について」にて提示された「○○市(区市町村)意思疎通支援事業実施要綱」いわゆる「モデル要綱」では無料が明記されている。

①制度が脆弱 地方自治体の事業で運営の基準に格差があると同時に未実施自治体がある。
国庫補助が、統合補助金で地方自治体の負担が大きい。
 解決の方向性→国において再定義順の設定を行う。
義務的経費化を図る。
②担い手の身分保障が不十分 登録手話通訳者はボランティア、
              雇用された手話通訳者は非常勤が大半

解決の方向性→雇用された担い手が中心の制度とする
正職員が手話通訳業務を担う。
地方自治体の正職員として雇用する。
登録手話通訳者も含め、労働基準法第9条に規定する 
労働者として位置づける。

③生活支援の視点が不十分 相談支援業務との連携が少ない
解決の方向性→相談支援業務については、ろう者とコミュニケーション
がとれるもので、手話のできる者、手話通訳のできる者
が、福祉事務所や聴覚障害者情報提供施設の業務の担い
手として位置づける。
④利用者が少ない ニーズの掘り起こしが不十分
解決の方向性→事業の利用者を増やす(ニーズの掘り起こし)を業務と
して位置づける。
制度を利用しやすくする事業運営方法にする必要がある。
⑤利用者負担の懸念 利用者負担は無料とすることの保障がない
解決の方向性→厚労省通知のいわゆる「モデル要綱」にみられるように
利用者負担を求めないことを制度内で明記
受益者は全国民であり税負担で対応
  ※障害者福祉サービス等の利用者負担については、障害者総合支援法施行

3年後の見直しについて~社会保障審議会 障害者部会 報告書~」に
おいては各論併記の上で引き続き検討することとしている。基本的には
障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」(平成23年8月)  
等を踏まえ、利用者負担はサービス抑制につながるとし、利用者負担は
無料とすることを求めていく。
※ただし、明らかにろう者個人を対象に、手話通訳業務と相談支援業務が一体になった障害者福祉サービス利用のあり方、利用者負担に関しては、さらに検討が必要である。

4 あるべき手話通訳事業の提言に向けて
①手話通訳事業を担う事業所の手話通訳者が現場で担う業務として、次の2点
に整理する。
(1)言語レベル通訳業務
(2)情報提供・当事者間の関係調整業務
手話通訳の機能としては、「言語レベル通訳」と「情報提供・当事者間の関係調整」等である。
担い手としては、雇用された正職員手話通訳者、登録型手話通訳者となる。

相談支援業務(意思形成・決定に関与)については、ろう者とコミュニケー
ションが可能な手話のできる者、手話通訳のできる者が主に行政における福
祉職として相談支援(意思形成・決定に関与、関連業務の企画や運営管理)
業務に就くことが重要になると思われる。

 担い手としては、全国手話検定試験や手話通訳資格を基礎資格とし、さらに
社会福祉主事、社会福祉士あるいは精神保健福祉士等のソーシャルワーカー
の資格を持って働ける正職員となる。

③手話は言語であり、手話通訳とは言語レベルの通訳業務であるという見方が
高まってきているが、なお社会的には、ろう者はマイノリティ(少数者)で
あり、ろう者が、聞こえることを前提としている社会活動・社会生活に対等・
平等に関わっていくためには、ろう者の主体性を尊重しエンパワーメントの
視点から関係調整することが求められているし、相談支援・福祉の支援を必
要とするろう者がいる。
このようなろう者の暮らしを考えた場合、障害者総合支援法が定める手話通
訳事業を実施する手話通訳事業所の機能は、手話通訳業務と相談支援業務が
一体的に行われることが適当である。
雇用された正職員手話通訳者、及び全国手話検定試験や手話通訳資格を基礎
資格としソーシャルワーカーの資格を持って働ける正職員がいる福祉事務所
聴覚障害者情報提供施設、障害関係事務所を基盤に据えた手話通訳制度を構
築する。
・手話通訳資格を基礎資格とする者は手話通訳業務を担うことを原則とする。
・自治体が雇用する職員及び手話通訳関連業務を受託する民間法人職員は、
手話通訳関連事業の企画及び実施も担う
・実施主体は国または地方自治体(公的責任で実施)
・事業の財源は、一般財源(税負担)、地方交付税化もある。
・実施根拠は、国が定める(例:社会福祉法、法律に基づく施行規則などの
規定、通知など)
    
④養成
 多様な養成システムが必要である。加えて手話通訳士の養成カリキュラムの確立が必要である。
 ・手話奉仕員養成事業・手話通訳者養成事業の完全実施(障害者総合支援法)
 ・手話通訳士養成カリキュラムの確立
 ・手話通訳者・士の指導者養成の実施(障害者総合支援法)
 ・大学・専門学校など高等教育機関で手話通訳者養成(文部科学省)
   養成は、大学または専門学校の専門課程(カリキュラムは別途検討)による。
⑤認定
 次の3つの柱で取り組む
 ・手話通訳者全国統一試験の完全実施(障害者総合支援法)
 ・手話通訳士試験を全国手話研修センターに移管
 ・手話通訳士の国家資格化をめざす
 国家資格化にあたっては現行の手話通訳士と手話通訳者資格を統一する資格とし、情報・コミュニケーション法に位置づけるか、手話通訳士法とするか検討が必要る

⑥設置・雇用
 聴覚障害者情報提供施設をはじめとする手話通訳事業所やろう者雇用機関(例;役所、民間企業、障害者団体)が雇用した正職員が、手話によるコミュニケーションや手話通訳を担当する者は正規雇用により、災害時対応、守秘義務、企画立案、継続した関わり、関係者との信頼関係づくり、キャリアアップ等が可能になる。
 なお、手話通訳業務専任ではなく、「手話通訳ができる職員」として雇用す
ることも想定される。

 
⑦派遣
 手話通訳者派遣事業は、改正障害者雇用促進法、障害者差別解消法の合理的配慮としての対応となると考えられる場面でも重要であれば公的制度で対応できる制度とする。
 
また、派遣事業の担い手となる登録型手話通訳者の労働性の確立、位置づ
けについては、早急に検討が必要である。

⑧手話保存・研究
 当面、既存の方法により、言語としての手話に関する総合的な研究記録、保
存機関として日本手話研究所を位置づける。将来的には手話言語法(仮称)
による対応が必要である。

以上の制度構築にあたっては、全日本ろうあ連盟、全国手話通訳問題研究会、日本手話通訳士協会の3者による詳細な制度設計が求められる。
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5.障害者差別解消法に基づく合理的配慮として取り組むこと
障害者差別解消法施行に基づく、言語・コミュニケーション面での合理的配慮として聞こえる人が自ら手話を習得し、直接、手話でのコミュニケーションできる場面を増やしていくこと、そのための全国手話検定試験による手話ができる人の普及も、手話通訳制度構築と並んで重要な取り組み課題である。
・買い物、余暇活動、近隣や地域の人との交流等の日常生活場面は、ろう者と手話を習得した住民間による直接的な対応が基本。
 ・役所の職員、会社の同僚等をはじめ、ろう者と各分野で関わる人々が全国手話検定試験を受験し、一定の手話コミュニケーション能力を持つことをめざす。
・2016年4月の差別解消法施行以降の公的機関におけるろう者のバリアフリー対応(情報アクセスとコミュニケーション保障)は、多くの場合はいわゆる設置通訳者が対応すると想定されるが、デメリットとして
担当の職員とろう者が直接対応するというより、コミュニーションを自治体が雇用する手話通訳者にまかせてしまうことになるのは良いことではない。手話でコミュニケーションできる職員を増やす必要があり、全国手話検定試験の活用が考えられる。
 なお、手話でコミュニケーションできる範囲では困難な場合、手話通訳制度に直ちに繋げていくことを社会全体の共通認識としていく。

6.参考資料として
 ワーキンググループにおいて、手話通訳業務の整理、手話通訳業務と相談支援業務の一定的提供のあり方、聴覚障害者情報提供施設の役割等についていろいろと論議した。参考資料として下記の2点の資料を添付する。
①福祉領域における手話通訳業務と相談支援業務の一体的提供について
②手話通訳業務における関係調整が必要になる可能性のある場面
by toyonokuni | 2016-05-18 20:35 | 協会・センターからの情報 | Comments(0)


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